2019.10vol.9
今回は加齢臭(かれいしゅう)についてお話ししたいと思います。
加齢臭とは、30~40代以降にみられる加齢に伴う体臭のことです。
以前より高齢者に特有の体臭があることは経験的に知られていましたが、1999年に国内大手化粧品会社、S社 研究員により高齢者の体臭の原因の一つが2-ノネナール (C9H16O)という成分であることが発表されました。
同時にこの体臭は「加齢臭」と命名されました。この命名は「加齢により体臭も変化する」という概念を示しているそうです。
外来でも、40代以降の男性が、枕の臭いで自らの加齢臭に気づいたという話をよく聞きます。男性は男性ホルモンの影響で皮脂腺が発達しているため汗や皮脂の分泌が女性よりも多く、加齢臭も女性より強くなります。
しかし加齢臭自体は男女ともにみられる現象で、男性は40代、女性は閉経後に増加することが多いとされています。
では、加齢臭とはどのようなものなのでしょうか。
加齢臭は青臭さと脂臭さを併せ持つ独特な臭いです。人の皮脂に含まれる脂肪酸9-ヘキサデセン酸は加齢により増加します。
この脂肪酸が過酸化脂質や皮膚常在菌によって酸化したり分解されたりすることで加齢臭の原因2-ノネナールを生成します。
2008年には大手トイレタリーメーカー、L社が2-ノネナール臭とは異なる、ペラルゴン酸 (C9H18O2) を原因とする加齢による体臭を発表しました。
また2013年には、男性用化粧品におけるシェアが国内トップクラスの化粧品会社、M社が30代から40代の男性の悪臭の原因として、ノネナールやペラルゴン酸とは異なる物質ジアセチルを特定し発表しました。
これら加齢に伴う体臭の原因成分は全て皮脂由来です。
では加齢臭は体のどこの部分から発生するのでしょうか。
頭部や首の後ろや耳のまわり、胸もと、脇、背中といった皮脂の分泌の盛んな部分で多く発生します。
皮脂分泌の豊富な季節、夏に気になりそうなこの加齢臭ですが、意外にも夏より秋冬の方が気になることが多いと言われています。
夏は汗により流されたり拭われたりして、加齢臭の原因物質が皮膚にとどまりにくいのです。それに夏は着替え、洗濯も頻繁にします。秋冬、皮脂分泌は夏より減りますが、暖かい服装で汗をかいたり、タートルネックの衣類の首の後ろ部分に皮脂が分泌されたりして、衣服に加齢臭がこもり、夏よりも強く感じる方が多いようです。
さて、この加齢臭を防ぐことはできるのでしょうか。それには4つのポイントがあります。
1.皮脂を抑える。
加齢臭予防で一番効果が高いのは何といっても洗浄です。入浴時に皮脂を良く洗い流しましょう。特に後頭部や首の後ろ、耳の後ろなどは洗い残しやすい部分ですが、皮脂分泌の盛んな部位です。念入りに洗いましょう。
汗、皮脂の分泌を少なくするため涼しい服装を着用することや、外出前に制汗剤を使用することも効果的です。外出先でもこまめに汗、皮脂を拭き取ることもポイントです。
2.レノナールの原因である9-ヘキサデセン酸の分解を抑える。
抗酸化剤と抗菌剤が有効であることが知られています。加齢臭に対応したデオドラント製品に含まれていることが多いので上手に使用しましょう。
3. 皮脂の付いた服をケアする。
汗や皮脂がついたままの服は時間が経つと加齢臭を放ちます。こまめに洗濯をしましょう。加齢臭は布に染み込むと落ちにくいので念入りに洗いましょう。消臭作用のある洗剤や柔軟剤も有効ですし、防臭効果のある衣類も市販されています。
4.お酒、たばこを控える
喫煙や飲酒により加齢臭が強くなることが分かっています。体調管理の為にも喫煙、飲酒は控えめにしましょう。
加齢により体臭が変化することは誰にでも起こる現象ですが、防ぐことができます。清潔を心がけ、市販の商品を上手に取り入れ、臭いを気にせず過ごしたいですね。
嵯峨 真輝 (さが まき)先生
学生の頃から小児皮膚科や女性特有の皮膚科疾患に特に興味を持って学んできました。私自身も妊娠・出産を経験し、子供を育てながら医師の仕事を続けております。