2024.03vol.44
日差しの中に温かさが少しずつ感じられるようになりました。本日は一年中診察する唇のトラブルについてお話ししようと思います。
日常診療する唇のトラブルのほとんどは乾燥です。乾燥に炎症を伴うものもあります。この乾燥は防ぐことができます。しかし、乾燥以外の症状は皮膚科受診をお勧めする場合が多いです。整理しながらそれぞれお話ししたいと思います。
乾燥以外の唇の皮膚トラブルとして最も有名なのは口唇ヘルペスでしょう。
単純ヘルペスウイルスの感染により唇や口の周りに赤い縁取りのある特徴的な水疱ができる病気です。ピリピリする痛みを感じる方が多いです。抵抗力が落ちると出現するので疲労のたまったとき、睡眠不足や体調不良のときにできやすく、繰り返します。他の人に感染しますので感染予防が必要です。早めの治療が有効ですので、すぐに皮膚科受診なさることをお勧めします。
唇はかぶれ(接触皮膚炎)の多い場所でもあります。かぶれの中で一番多いのは口紅によるものでしょう。口紅には様々な成分が入っているためかぶれの原因となることがあります。新しい口紅をつけて唇が腫れた場合は使用を中止して皮膚科を受診してください。外用薬がよく効くことが多いです。
食べ物によるかぶれも良く見られます。唇がたびたび腫れる方は腫れるたびにその前に召し上がったものをリストアップして、重複するものがないか調べてみてください。 突然唇が腫れる「血管浮腫」(クインケ浮腫)はじんましんの一種で、疲労や精神的ストレスが原因となることが多い疾患です。じんましんと同じように内服薬が良く効きます。
つぎに、日々の診療で最も良く拝見する唇の乾燥についてです。唇は大変乾燥しやすい部位と言えます。その理由は複数あります。
①皮脂腺や汗腺が無く、もともと油分が少ない
②角質が他の部分より薄いため荒れやすく、皮膚に水分を保ちにくい
③話すたびに唇同士がこすれる
④食べ物による刺激を受ける
⑤飲水やうがいで水に触れることが多く、唇に残った水分が蒸発する時に一緒に唇表面にあった水分まで蒸発してしまう
⑥空気の乾燥する冬は特に乾燥しやすい
⑦マスクの付け外しにより急な湿度変化による刺激
以上、様々な原因により唇の乾燥は起こっています。
唇が乾燥すると無意識に舐めてしまう方も多いのですが、そのあとさらに乾燥した経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。唾液で一時的に潤ったように感じても、油分が奪われますので舐める前より乾燥し、唾液に含まれる消化酵素により炎症が引き起こされることもあります。唇だけで無く周りまで舐めてしまい、口の周りが円形に皮膚炎を引き起こす「舌なめずり皮膚炎」は冬のお子さんによく見られる疾患です。
唇の乾燥を防ぐには「保湿」がなによりも大切です。薬局で購入できるワセリンやリップクリームがよく効きます。大切なのはこまめに塗り直すこと。お勧めは「保湿力の強いリップクリーム」です。最近の進化には目を見張るものがあります。ワセリンより持ち歩きやすく、手が汚れないので外出先でもつけやすいでしょう。しっかり保湿できるリップクリームをぜひ持ち歩いて一日何度もつけるようにしましょう。
本日は唇のトラブルのお話を致しました。マスクをつけずに外出する機会も増えてきました。つやつやと健康的な唇ですごしたいものですね。
嵯峨 真輝 (さが まき)先生
学生の頃から小児皮膚科や女性特有の皮膚科疾患に特に興味を持って学んできました。私自身も妊娠・出産を経験し、子供を育てながら医師の仕事を続けております。