2024.08vol.48
皆様は「美肌菌」と言う言葉をきいたことはありますか。ヒトの皮膚表面には通常多くの菌が存在します。これを皮膚常在菌(じょうざいきん)と言います。
皮膚常在菌には皮膚炎やニキビの原因になる有害なものもありますが、実は皮膚に良い働きをするものもあります。これは俗に「美肌菌」と呼ばれ、最近特に注目されています。本日はこの「美肌菌」を中心に皮膚常在菌についてお話しします。ヒトの皮膚には常に7~10種類の菌がいます。これが皮膚常在菌です。本日は代表的な3つの菌を取り上げます。
もっとも代表的な常在菌は皮膚表面や鼻腔に多く存在する表皮ブドウ球菌Staphylococcus epidermidisです。「美肌菌」の正体はこの表皮ブドウ球菌です(他の菌も含める場合もあります)。皮脂や汗を餌にして、グリセリンと脂肪酸を産生します。グリセリンは保湿に役立ち、脂肪酸はほかの菌の増殖を防ぎます。皮膚のバリア機能を高め、皮膚に悪い影響のある菌を抑えることができるのです。
二つ目はアクネ桿菌Propionibacterium acnesです。毛穴や皮脂腺に存在し皮脂を餌にプロピオン酸や脂肪酸を産生します。表皮ブドウ球菌と同じく皮膚に悪い影響を与える細菌の増殖を抑えますが、皮脂の増加や角栓により毛穴の出口がふさがれると急激に増えてアクネ桿菌自体が炎症やニキビや吹き出物の原因になります。
三つ目は黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusです。皮膚表面や毛穴に存在します。傷を化膿させる代表的な常在菌です。汗をかいてそのままにしていると皮膚がアルカリ性に傾きます。黄色ブドウ球菌はアルカリ性の環境で増殖します。皮膚炎を引き起こす、皮膚に悪影響を及ぼしやすい菌です。
これら常在菌は、それぞれに影響を与えながらバランスを保って共存しています。それを細菌叢(フローラ)と言います。美肌菌の恩恵にあずかるには良い皮膚常在菌の細菌叢を保つことが大切なのです。
そのためにはどうしたらよいでしょうか。
・洗顔方法に気をつける
皮膚に過剰に皮脂があったり、汗をかいてそのままにしたりしていると黄色ブドウ球菌やアクネ桿菌が増えすぎる原因になります。適度な洗顔で汗や皮脂を落とすことは必要です。
しかし、洗顔しすぎると常在菌を減らし細菌叢を乱れさせる原因になります。その上、皮膚の乾燥にもつながりますので回数が多すぎる方は1日2~3回程度にしましょう。
また洗顔料の使いすぎもよくありません。皮脂が多いところにはしっかり洗顔料が必要ですがそうでない部分は少なめにしましょう。常在菌は皮膚の一番表面、角質層に生息していますのでゴシゴシこすって角質層を取り過ぎないようにしましょう。こすらないことはバリア機能を保つためにも大切なことです。長時間の入浴も常在菌を減らしてしまうので気をつけましょう。
・メークはしっかり落とす メークはしっかり落としましょう。メークが菌を増やすこともあります。毛穴に詰まるとアクネ桿菌が増える原因となります。
・メーク道具は清潔に
ファンデーションのパフや化粧用ブラシには菌が付着し繁殖しやすいので、よく洗いしっかり乾かして使いましょう。いくつか洗い替えを用意しておくと良いでしょう。
・保湿をしましょう
乾燥した皮膚には表皮ブドウ球菌が増えにくく、黄色ブドウ球菌が増えやすくなります。乾燥しないように適度に保湿しましょう。
・生活習慣を整える
過労や夜更かし、食生活の乱れがあると皮脂が増えやすくなります。皮脂が通常より増えることで皮膚常在菌の細菌叢が崩れ皮膚に悪影響をあたえることが知られています。
規則正しい生活、疲労をためない生活、バランスの良い食生活を心がけましょう。
今回は皮膚常在菌についてお話ししました。 「美肌菌」は健康な皮膚の味方です。すでに誰の皮膚にでもいる常在菌ですから、日々の洗顔や生活習慣を整えることで「美肌菌」が増えやすい細菌叢を目指しましょう。
嵯峨 真輝 (さが まき)先生
学生の頃から小児皮膚科や女性特有の皮膚科疾患に特に興味を持って学んできました。私自身も妊娠・出産を経験し、子供を育てながら医師の仕事を続けております。